ProjectStory vol.2 市内外の利用者が集う 都市型キャンプ場+合宿所 公共施設の新しい在り方を創造する「昭和の森フォレストビレッジ」プロジェクトとは

R.projectが運営する「昭和の森フォレストビレッジ」は、千葉市最大の公園「昭和の森」内にある合宿施設・キャンプ場・多目的広場からなる複合施設だ。
千葉市が公園内で運営していた「千葉市ユースホステル」を2014年4月にリニューアルオープンしたもので、団体利用客向けの設備・サービスを改良し、施設間の相乗作用を高めたことで、市内のみならず市外からの利用者も急増し注目を浴びている。
さらに特徴的なのが、市が管理料を支払って民間企業へ管理代行を委託する従来の方式ではなく、R.projectが市に賃料を支払って経営する新しいビジネスモデルに転換したことで、市の財政負担軽減にも大きく貢献している点だ。
公共施設のセカンドキャリア創造に挑む、昭和の森フォレストビレッジプロジェクトの軌跡を追う。

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100万都市でも合宿ビジネスが成り立つ

千葉市公営の施設「千葉市ユースホステル」が開館したのは1983年。
ピーク時には年間約8,000人を数えた利用者数も、少子化や近郊の宿泊施設の充実とともに減少し、2012年にはピーク時の約半分4,400人まで落ち込んでいる。
珍しいほどの激しい落ち込みに思えるが、これは決してレアケースではない。同様の状況にあり、有用活用が問われている公共施設は全国に数多く存在している。
ビジネスという観点から考えると、たいていはすでに人が集まっているところに商機があり、集まっていない場所に人を集めるのは難しいという先入観を持ちがちだが、R.projectは「都心に近い豊かな自然がある立地に、宿泊やスポーツに活かせる施設があれば、地元商圏以外でも利用客を集められる」という考え方。
先述したような一度は見放された施設のポテンシャルを探り、隠れた価値、可能性を最大限に引き出すプロジェクトに取り組み、実際、その理念のもとで地方地域におけるビジネスを成功させてきた。


どちらかというと地方の人口減少地域が事業の展開地になるR.projectにとって、政令指定都市でもある千葉市から施設運営の公募について声がかかるとは、R.projectの誰も想像すらしなかったことである。千葉市は100万人近い人口を抱える大都市。これまでのR.projectの実績からすると正反対の条件となる。
人口の多い都市部という立地条件で、合宿ビジネスを展開できるのだろうか……
メンバーの誰もがそう考えていた。


ところが実際に調査を開始すると意外な事実が浮かび上がってくる。
千葉市は東西に長く伸び、政令指定都市といっても市の西部を中心とした市街地だけではなく、東部には田園風景が広がる豊かな自然環境があったのだ。そんな自然環境のなかに東京ドーム23個分にもなる市内最大の公園がある。公募内容は、その公園内にある閉鎖予定の宿泊施設とキャンプ場の運営だった。


「ここならできる」 R.projectメンバーは確信した。

リスクの少ない公共施設の管理委託

通常、公共施設の民営化は行政が民間企業に委託料などを支払って運営代行を委託する。
この形式では民間企業は業務内容や料金制度などの裁量が少なく、そのために発生している機会損失を行政が費用負担することになる。
公営時に比べて費用負担が減るとはいえ、行政の出費は継続し、民間企業も安定した運営委託費が払われる中で営業努力が限定され、利用者に対しても公営時の各種規制などが残ることになる。今後行政の財政状況が一段と厳しくなる中で、より思い切った民営化が必要になってくるというのがR.projectの考えだ。
千葉市のケースにおいても、市営時は指定管理者に年間4000万円の委託費が支払われていた。


一方、R.projectが一般的に行政に提案するのは、その真逆とも言える運営方法。
管理料を受け取らないばかりか、賃料を市へ支払う。その代わり、ハードとソフト面において民間企業の感覚で自由に運営することを希望する。
市にとっては、今までの委託費の代わりに賃料収入が得られることで財政負担が劇的に変化する。さらに、利用者が増えれば二次的な貢献で地域経済活性化も期待できる。
千葉市サイドにとって、これほどありがたいスキームはない。

小さな3つの点でも、線で結べばそこには大きな面が現れる。

公募において運営業者として選定されたR.projectが最初に着手したのがマーケットの拡大。
千葉市が運営していたときは、市民のための公的施設という位置づけから市外の利用者へ向けた働きかけにはあまり力を入れていなかった。これを市外の利用者にも積極的に宣伝、誘致を行ったのだ。運営開始から数か月で、アメリカの大学生が企画する大型のサマースクールの誘致にも成功した。
さらに公営施設が陥りがちな保守的すぎるルール設定を一新することで、利用者の自由度を上げるばかりでなく、施設間のシナジー効果(共同で運営することで、単独運営よりも大きな結果を出すこと)も可能となる。


公営時はキャンプ場とユースホステルの間にほとんど顧客の行き来はなかったが、ここのキャンプ場のほとんどが初心者層。キャンプをしながらも宿泊施設のお風呂を利用したり、朝夕にラウンジでコーヒーやビールを飲むスタイルも求めているはずとR.projectは考えた。ラウンジエリアのリノベーションや飲食の提供、気軽なお風呂利用を促し、キャンプ場と宿泊施設との行き来を大幅に増やした。

ペットの扱いに関しても同様に新しいルールを設定した。
千葉市の運営時には禁止されていたキャンプ場へのペット入場を可能とし、さらにペットが自由に走り回れる「ペットふれあいエリア」を新設。 いまではペットとともに宿泊できる施設というのがペット愛好家のあいだで大きな話題となり、これもまた集客へ一役買っている。


このように利用ルールを需要に合わせて緩和することで、それまではある意味孤立していた宿泊施設「フォレストロッジ」・キャンプ場「フォレストキャンプ」・多目的広場「フォレストフィールド」をひとつにつなげ、それぞれの長所の相乗効果で大きな集客を生んでいるのだ。
点を線で結び、面をつくる。まさにそれを地でいく運営だ。
ちなみに昭和の森フォレストビレッジの「ビレッジ」はこの考えをもとにしたものだ。


それと併行してR.projectが進めたのが徹底的に利用者の目線に立ったハード面のリノベーション。
キャンプ場「フォレストキャンプ」は、昨今のアウトドア人気で初心者の参加が増えたことから、誰でも手軽に楽しめるオートキャンプ場を設置。従来は管理者専用だった道路を利用者にも解放することで、初心者でも機材、食材の搬入が便利なキャンプ場となった。

さらに、水場の増設、電源の確保といった数々の利用者のニーズに目を向け細やかに対応。なかでも重視したのはウォシュレット付きのトイレの設置だ。
キャンプ場で最も期待値の低いとされるトイレを清潔で使いやすいものへと替えることで、特に女性の利用者が急増するきっかけをつくったのだ。


また、宿泊施設「フォレストロッジ」では、シャワールームの新設や、ロビーもコーヒーやお酒などバリエーション豊かなドリンクサービスを提供するカフェ仕様へとリノベーションされた。 ちなみにこのロビーはキャンプ利用者や、地域の方すべてに解放されているのもビレッジの特徴だ。 そのような便利で過ごしやすい施設づくりの一方、客室からは人工物がまったく見えない異空間の演出にこだわり、これは利用客からも「都市にいるとは思えない」と大好評を得ている。


徹底して利用者の目線に立ち、ルール、施設をリノベーションした結果、3つの点を結んだ面がまさに「ビレッジ」として機能しているのだ。

地元の既存スタッフを引き継ぐ 元従業員をほぼ全員採用

旧「千葉市ユースホステル」で働いていたスタッフたちは、R.projectの運営に切り替わるタイミングで委託運営者との雇用契約が終了した。
しかし、R.projectはそのほとんどの人たちを即採用。
運営しながらリニューアルするという事情もあり、慣れたスタッフが必要だったという側面はあった。ただ、それよりも大きな理由となったのが、旧施設で働いていたスタッフたちのモチベーションと、施設への愛着だったという。
とりわけ印象的だったのがとある面接でのこと。


「またここで働けると思うと、跳び上がるくらい嬉しい!」

満面の笑みでそう語ったのは、公営時代から長年、施設で清掃のアルバイトをしていた地元に住む60代女性。 こういう施設に愛着を持つスタッフが非常に多かったのだ。
それと同時にR.projectのスタッフも、地元の方々の思い入れが強い施設を活用させていただく立場だという責任感、地元に貢献できるように応えたいとの思いを改めて強く感じた。

昭和の森フォレストビレッジのこれから

順調に利用者数も伸びている「昭和の森フォレストビレッジ」だが、なかでも地元地域の方々の利用が多くなっている。ビレッジがある土気(とけ)周辺のエリアは人口が多く、R.projectとしても今まで以上に地域に密着した運営に力を入れていくとのこと。
すでに「昭和の森フォレストビレッジ」プロジェクトを中心として地域と人々の暮らしを発展させる施策を仕掛けており、地元住民向けのサービスも拡充してきている。


葉山や多摩川を始め、アウトドアフィットネスクラブを運営する株式会社Beach Townとコラボし、ヨガや広大な敷地を誇る昭和の森公園でのランニングやウォーキングプログラムを開始する。フォレストロッジ内にシャワーとロッカーを新設し、公園を利用するランナーの希望が非常に高かったランニングステーションの役割を果たす。さらには子どもたちが参加できるワークショップや、入場無料のフェスの開催も企画も進んでおり、市外からの利用者が楽しめる取り組みも充実してくるはずだ。

また、これらの企画はR.projectサイドだけではなく、地元で地域活動を行う土気NGOとも深く連携をしており、今後はますます地域の強みを、市外、県外へと広げていく。


成長を止めない昭和の森フォレストビレッジ。 飽くなきR.projectの挑戦は続く。

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